学習院の将来の計画(昭和34年4月10日 桜友会報 第2号より)

学習院の将来の計画

学習院の教育施設は、戦災の復旧と新企画に対応する増築によって現状にまで来たが、勿論引き続いて次の発展計画が行われている。しかし、三十二年度に終ったばかりの五ヶ年整備計画で借入れた負債の償還に今後数年をかけねばならぬ貧乏世帯では、莫大な資金を投じて理想学園施設を直ちに実行に移すことは甚だ困難である。施設は一日も速かな実現を欲し、建設資金は無い。如何にして今後に処すべきかが三十三年度に理事者当局が頭を悩ました小憩の一年間であったのである。資金とは離れて理想をいえば、先づ目白の大学では、大学に相応しい図書館、体育館、オーヂトリアム学生会館、余裕のある大、中、小の教室、研究室、学生厚生施設、文化、運動各部学生活動のための部室、校庭校地全体の整理美化等、男子高等科については、本校舎の完成、男中と共同使用の体育館、校庭運動場の美化整備等。男子中等科は、教室の増築、校庭運動場の整備、高中共同使用に適するよう旧清明寮の改造等。短大については短大に相応わしい校舎に増改築、学生活動に必要な部室学生ホール等。女子高中等科では理科教室その他女子教育特有の特別教室、職員室、事務室の増築女子部全体共通の問題としてほ女子部図書館の整備、戸山校地全体の整地実化、運動施設の増設などであるが、女子部校地として根本的な難問題は、現在の校地二万五千余坪の広大な土地が、国有財産を借用している借地であることである。やがては払下げを受けねばならぬが面積が広いだけに多額の購入資金を用意せねばならぬ難問題である。初等科は校舎も校地も略々整備している。一部木造教室だけは鉄筋教室に改築せねばならぬし、給食室の拡張、附属の農芸園や動物飼育場等は更に整理美化が望まれる。なお学習院全体の施設としては本部事務室も改築を要し、海の家ともいうべき沼津遊泳場に対して、冬のスキーのためや、夏休みのリクリエーションのための山の家や高原寮も欲しいものである。挙げれば尽くるところはないがここらで夢を追うことをやめて、実行可能な計画案について語ることとしよう。
欲しい施設は前に述べたように沢山あるが、急速にこれ等全部の事業を完成させることは、現在の学習院財政の克く耐ゆるところではない、資金の調達を工夫しその可能の限度において徐々に実行に移しつつ時の到るを侯つ外にはないのである。資金の調達について種々研究の結果①借入金②寄付金③財産処分による収入金による外なく、借入金償還の見透し、寄付金については募集の可能性、財産売却については教育的利用度の低い土地の売却可能面積等に検討を加えて結局三億数千万程度の資金は何とか調達可能の確信を得たのでこの資金額の限度において、昭和三十四年度から実行に着手する成案を得たのである。予定される計画事業としては緊急必要度から先づ三十四年度において大学の不足教室の解消を目指す大、中の教室、小講堂、演習室、実験室、図書閲覧室、経済、文学、理学各学部の研究室の新築、本部事務室の新築とこれに伴い学生活動に必要なる部室の充足。女子短期大学においても不足教室の増築および設備の充足等である。三十五年度以降の事業としては男子高等科教室、職員室、事務室の新築。男子中等科の教室、職員室の増築。女子中等高等科の理科教室、職員室、事務室の増築。初等科の一部増改築その他全体に亘って予算の許す限り校庭、運動場の整備が予定されている。
大学研究室教室等の建築設計は前川建華設計事務所に依嘱して目下着々作製中であるが、二階建の本部と中講堂を中に鉄筋四階建の堂々たる大建造物が、現在の校庭の前面にそそり立つ構想のようで、今迄頭も顔もなかった学習院大学にもいよいよ大学らしい整容を伝える日が近いことになった。


【写真は将来完成された時の目白の大学の全容である。】