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平成15年・第10回 法学部会講演会 「アカデミズムとジャーナリズム」 平野次郎氏 NHK解説委員、学習院女子大学特別専任教授

法学部同窓会便り

第10回
法学部会
講演会 アカデミズムとジャーナリズム
平野 次郎氏 NHK解説委員、学習院女子大学特別専任教授
平成15年7月19日 於 記念会館

 アメリカの社会学者デイビッド・リースマンは、学者と知識人との違いを「学者というのは観念の中に生きる人間であり、知識人は観念を求めて生きる人間である」と言っています。
 ジャーナリストというのは、自分の感情や嗜好に関わらず、事実を事実として受け止めるものです。対して学者というのは、事実の中から論理をつくりだします。そこに違いがあります。
 コンバージアンスの原則というものがありますが、コンバージアンス(収斂)の原則とは、格差が存在する経済圏同士が、経済を交流させると、結果として格差が是正され、両方の経済圏にとってハッピーな結果がもたらされるという近代経済学の理論です。しかし、経済学者はその条件については配慮していない。その他の条件が一定であるという仮定に基づいて理論をつくる。しかしジャーナリストは一人ひとりの人間を見るわけです。そうすると、個に目が行き過ぎて全体を統一するひとつの理論をつくりあげることができないのです。これがアカデミックとジャーナリズムの違いです。
 ジャーナリストは、自分が見たものを信じ、それをニュースにする。学者は、そういう一人ひとりの情報を集めて並べ、そこから統計的な理論をつくる。そうすると個の情報からは遠く離れてしまう。ジャーナリストと学者というのは、それぞれにこのような特徴があるのです。
 東西ドイツが統一されて間もない頃、ポーランドの方が安いからという理由でドイツの主婦がポーランドでマルクで買物をしていました。
 経済学では、100円の製品があるとすると、20円が原価で80円は労働賃金ということになります。では、ドイツとポーランドではどちらが労働賃金が高いかというと、ドイツのほうが5倍ぐらい高いんです。そうすると、ドイツで100円のものをポーランドで買うと20円で買えるわけです。私は、これが冷戦が崩壊したということの現場での事実なんだとそのときわかったのです。現場の人たちにとって、冷戦が終わる前と終わったあとで何が違うかというと、昨日まで買いに行けなかったところへ買い物に行ける、安いものが買えるようになったということなんです。ジャーナリストはそういうものをいつも追いかけています。個人の生活の話を通して全体を理解させようとしているのです。学者は個人の生活よりも全体を、そして個人を見てもなるべく平等に扱おうとします。それはどちらも正しくてどちらも少し正しくないと思います。
 この話の中からドイツの主婦たちが毎日ポーランドへ安いじゃがいもを買いに行って、ポーランドの労働者がドイツに働きに行くということが続いている間に、両国の物価、労働賃金、経済の水準が等しくなるというのがコンバージアンスの法則です。問題は、この法則は確かに働いているけれども、物理のようにはっきりとは目に見えず、ときとしてその法則に逆行するような現象もあるということです。そこが学者には説明がつかない、絶対に教えない分野です。そういう人的な要因というのはさまざまなところに顔を出す。だからニュースというものが発生し、それを追いかけるジャーナリズムというものが存在するのだと思います。
 ジャーナリストは、このような現象を一つひとつ拾ってきては面白おかしく伝えているわけですが、学者は早くて5年、遅くて10年たたなければ論として確立することはできないだろうと思います。
これは、すべてのイマジネーションの源なんです。
私は学生にいつもこう言っています。「Don’t panick」。何が起こってもパニックを起こすな。そのためには、世界のことをよく知って日本を理解しなさい。そして日本のことをよく勉強して世界に説明できるような力をつけなさいと言っています。それは多分にジャーナリスティックなことでありアカデミックなことであろうと私は思っています。

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