学 習 院
昔の学習院とこれからの学習院  学習院長 波多野敬雄
学習院広報 平成18年7月発行第76号より抜粋

 私は今年五月末の学習院評議員会で学習院長に選任され、急逝された田島院長の残任期を務めることとなりました。私にとって学習院は懐しい母校であり、昔幼稚園から戦争を挟んで高等科迄お世話になりました。その間私は学習院で勉んだというより学習院に育てられたと思っています。戦後の高等科では野球部のピッチャーを務め、教室と野球のグランドとどちらで過す時間が長かったか判りません。高等科の夏の甲子園大会予選では未だ出場校数が少なかった時でもあり、真面目に甲子園行きを夢見たものです。その時の通信簿(成績表)には担任の渡辺末吾先生が(余り良い成績ではないが)「野球を磨けながら、これだけの成績を維持することに敬意を表する」と書いてくれました。学習院とはそんな学校でした。この様な学校生活によって得たものは、倫理観、男の礼儀、先輩後輩との人間関係の他、丈夫な体、勝負の厳しさ等計り知れないものがあり、その後四十年の外交官生活で私の貴重な資産でした。


学習院長 波多野敬雄

 私は院長就任前の三年余り学習院女子大学の学長を務めました。長い役人生活の半分以上を外国勤務に過した私は日本の教育に携わった経験はなく、自信もありませんでした。 その時田島前院長とお話ししていたら田島院長が「知らないということはマイナスばかりではない。知らないから新しい考え方で自由に行動できるプラスがある」という趣旨のことを云われました。私も女子大学では若干の反対意見を意識しながらも、可成り自分の思うことをやらせて頂きました。一応の成果は挙げた、と思っています。英語に専念して二年生の時は全員留学する英語コミュニケーション学科をこの四月から発足させた他、夏と春の休みにはラオス、カンボジアへボランティア活動実習に学生を派遣する制度も導入しました。ラオスは民宿で毎日歩いて川へ行水に行きます。それでも参加希望者が増えて引率する先生探しに苦労します。来年は出来ればサッカーで有名になったクロアチアの難民センターへ難民支援と奉仕のため学生を派遣したいとも考えています。この様な新しいことを始めると同時に学習院の持つ古くからの美徳と云うべきものは大事に育てます。女子大学では華道・茶道・書道・有職故実(着付け)の他、家元の先生が自ら担当する香道も正課に採り入れていますが、受講希望者が多くて抽籤で落選した生徒の父母から何時も文句を云われています。
 私が担当した女子大学の話はほんの一例です。学習院では幼稚園から大学を通じて既に改革が実践されつつあります。平成三年に始められた「学習院二十一世紀計画」も当初計画された事業の大半を達成しました。そして現在は平成十四年策定の「学習院新長期計画」が具体的な形で推進されています。学習院大学の綜合キャンパス・プランと女子中等科・女子高等科の教育改革案もまとまりました。 情報教育では「学習院情報ネットワーク委員会」が組織され、体制の整備と高度利用が進められています。しかし私にはそれでも末だ改革が充分ではないような気がするのです。
 ここで書きたいことは沢山ありますが、私は就任直後(実は就任後一週間足らずで本稿を執筆しています)で勉強も不充分なので日頃感じている二点に絞ってみます。一つは広報・PRの重要性です。私はこんなに有名で、こんなに地の利を得て、且つこんなに教育内容も優れた大学が、期待する程人気が出ないのは何故だろうと考えています。これは今後の研究課題ですが一つはPRでしょう。私は外務省で広報を担当した時、外国への日本宣伝ばかりにお金と人を使う時代は過ぎつつあり、今や外交は国内広報・世論との調整に努力しなければならないと実感しました。外務省を引退して一時期朝のテレビ番組で桂文珍と組んで国際間題のコメンテーターをやっていた時には、イメージというものの重要性と難しさを思い知らされました。広報は一生懸命やれば効果が挙がるというものではなく、智慧で勝負するものです。大金を使って学習院という名前を広告してみても、学習院は既によく知られているので左程効果はないでしょう。 今の学習院はどんな学校で、その教育内容が教室外のものを含めてどんなに優れているかを知らせなければなりません。世間では学習院というと何となく古くて遠いイメージがあるかもしれません。学習院は近くにあって新しい時代が求める教育を行い、しかも楽しい所だというイメージを造りだして、これを世間に植え付ける作業が必要でしょう。とても難しいことです。
 次に学習院の一貫教育です。私自身幼稚園に何となく入って、そのまま高等科卒業直前迄入学試験等ということは意識したこともありませんでした。今思えば恵まれたユトリある学生生活でした。問題はこのユトリをどれだけ有益に活用するかです。実社会に出てみると教室で学んだことと同様に、又はそれ以上に対人関係、調整能力、更には精神的なものを含めた健康が物を云います。そうは云っても、自分は学習院を辞めて東大へ行きたいという学生はいるでしょう。しかし私が嬉しかったのは最近高等科の千葉科長と話している時、今年の高等科卒一番は学習院大学へ進学した、ということでした。聞いてみるとこれは珍しいことではなく、例年とも最優秀な高等科卒業生は学習院大学へ進学する例が多いのです。そんな学生は将来成功するでしょう。何故なら学業が優秀なことに加えて、ユトリを持って育っているからです。
他方男女高等科から進学する大学生は全体数の中では少数なのですから、学習院が一貫教育を誇れるためにはそれが外部から入学してくる多くの大学生にとっても、プラスの校風・学習院らしさとなって浸透するような事態が望まれます。学習院は日本一と云うべき歴史と伝統を有する学校です。我々はそれを誇りとし大切にします。しかしこれに安住しません。時代の変化は烈しいものがあります。少子高齢化もグローバライゼーションも予測を超える速度で進んでいます。私は学習院が時代を追い掛けるのでなく、スピード感を持って時代を先取りしていかなければならないと思っています。

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