令和8年・松籟会(香山ゼミOB会)研究会の報告
学習院大学のキャンパスは、春の訪れを感じさせる陽気に包まれていた。
去る令和8年2月28日(土)の時である。学習院創立百周年記念会館4階会議室で、毎年恒例となった松籟会(香山ゼミOB会)研究会が50名の参加を得て開催された。
松籟会会長の豊田利男氏(3期)は、「来春は香山健一先生(法学部教授)没後30年となる。この29年間にわたり、松籟会が途切れることなく継続されてきた意義は大きなものがある」と、冒頭の開会挨拶で述べた。
そして二人の発表者により、それぞれ1時間の発表と20分の質疑応答の研究会が始まった。
1人目は前田宏さん(16期・アマゾンジャパン合同会社バイスプレジデント)による「Amazonの成長の裏がわにあるもの――企業文化と思考法」。前田さんはソニーに入社後、米国や日本で要職を経て退職、2005年にAmazonに入社して現在は消費財事業統括本部長を務めている。
発表の主な内容は以下の通り。
Amazonは、1994年に創業者の米国人ジェフ・ベゾス氏が自宅のガレージでオンライン書店を立ち上げたことから始まる。彼は創業当初から明確なビジョンを持ち、何よりも顧客の信頼を得てブランドを確立させることに精力を傾ける。赤字の時でさえ、株主や銀行の理解を得て投資を続けた。世界の主要大企業となった現在も全社員の半数がエンジニアであることは、Amazonの成長の源泉となっている。
また、社内の会議ではパワーポイントは用いずに文章を基に議論をする。会議の冒頭30分を参加者が文書資料を読み込むために静寂に包まれるという。この発表を聞きながら、重要な事柄は文書にまとめさせると述べていた著名な外交官の逸話を思い出した。
こうして、創業者ジェフ・ベゾス氏の哲学がAmazonの社員に徹底して共有・継承されていることがよく理解できた。Amazonの顧客の信頼を裏切らないシステム構築の絶えざる進化に、「日本企業の本来の姿はこうだったはずだ」と、発表を聞きながら羨望の眼差しとともに残念な気持ちが交錯した。
2人目の発表者は西川順子さん(30期・桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群准教授)による「日本の戦略広報」。西川さんは、学習院の初等科からの生え抜きで学習院大学を卒業後、英国ロンドン大学の名門カレッジであるLSE(London School of Economics and Political Science)の修士課程修了。その後、企業勤務、英国や国連機関の対日広報、首相官邸の国際広報支援などに通算25年以上携わる。
この間、プライベートにあっても子どもを三人育て、夫の転勤や海外赴任にも対応し、現在は東京科学大学(旧東京工業大学)博士後期課程に在籍し博士候補であり、50代にして博士論文を執筆中という。このバイタリティはどこから生まれるのかは、あいにく聞きそびれてしまったが、恐らくは日々の積み重ねそのものなのかも知れない。
研究テーマは、発表テーマと同様の日本政府の国際広報戦略であるが、例えばその予算規模に関する年次データの推移がまとまっていなかったため、各種の資料を分析しデータ化していく。あたかもジグゾーパズルのピースを一つひとつ埋めて全体像を描く知的作業と推察した。
また、政府の国際広報の強化は、第二次安倍政権でのイメージを持っていたが、起点が民主党政権時に始まるとの指摘も興味深かった。日本の実像や考え方をどう世界に的確に発信していくかは、わが国にとって重要な課題であり、西川さんの研究に対する期待が多くの参加者から寄せられた。
研究会の後は、学内の輔仁会館2階さくらラウンジに場所を移し懇親会が始まった。乾杯の音頭は、香山先生の学問上の系譜を継承されている畠山圭一先生(学習院女子大学教授)にしていただき、「志の継承」に力点を置いた挨拶をされた。
畠山先生はこの研究会の1週間前に、学習院女子大学での3月末での退職に伴う最終講義を終えたところであり、その講義でのお話は香山先生との出会いや学問の継承であったため、志の継承という言葉は香山ゼミOBの心に響いた。
一方、香山先生の次女・香山里絵さんは、あいにく国内出張と重なり欠席となったが、博子夫人の近況も記されたメッセージをいただき、研究会の資料とともに配布し参加者は目を通し懐かしがっていた。
懇親会ではそれぞれが近況を報告し合い、目白の森の夜は心地よく、歓談の輪は途切れることなく続いた。
13期・真部栄一

