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平成17年・第12回 法学部会講演会 政治記者として見てきたこと これまでの取材を通して 小池 英夫氏(昭60営) NHK政治部記者

平成17年7月16日 学習院創立百周年記念会館にて
 郵政民営化を改革の本丸と位置づけ、小泉内閣最大の課題として取り組んでいるが、国民に、今一番取り組んでもらいたい政策を問うと、郵政民営化は10位前後で、1位には福祉・景気・年金をあげている。小泉さんと国民の問に意識のギャップがある。
 この内閣は小泉首相個人の人気によって支えられている。小泉さんと国民との関係は、若貴ブームと大相撲に少し似ている。90年代に毎日満員御礼が続くという空前の大相撲ブームがあったが、これは89年11月場所に貴花田が新十両になり、貴の花にしこ名を変えて、全盛期を歩み、97年5月に引退するまでの 7年半のことだった。若貴ブームが去って、人気が下がると、両国の国技館だけでなく、地方に行っても、観客が半分位で、閑古鳥が鳴いている日もあった。あの空前の大相撲人気は若貴人気に支えられていた。
 小泉首相は政治家の世界では変わり者で通っている。夜も寝るのが遅いようだが、朝が本当に弱い。火曜と金曜は閣議があり、国会開会中は午前8時から、閉会中は午前10時からだが、それ以外は11時以降に公邸を出ている。歴代の首相の中でも朝のスタートが遅い。
 また、非常に多趣味である。歌舞伎、映画、オペラ、ミュージカル。今日から3連休だが、他の総理大臣だと3日のうち1、2日は政治家と会って、情報を仕入れたり、政策課題について議論したりする。小泉首相は自分の趣味に休日全部をあてている。
 首相の1日の中で一番輝く時間がある。1日2回の記者団の質問に答える時間、午前11時半から12時と夕方6時から7時位の間で、特に後者はテレビが入るので目を輝かせ、ワンフレーズを話し、表情も豊かで、生き生きとしている。
 「構造改革なくして景気回復なし」等のワンフレーズで、国民に分かりやすく、訴える。自分の言葉で言えるというのは小泉さんの力量・才能で、これまでの首相にはなかったことだ。
 さらに、サプライズがある。国民をあっと驚かせて、支持率を上げる。ハンセン病の判決に関して、国は上訴するという見解が多かったが、夕方、官邸での会議後、記者団の前に現れた首相は、一言「告訴はしません。後は、担当大臣に開いてください」。普通第一報は担当閣僚、官房長官が言うのだが、首相の決断であるという印象を与える。
 人事では、安倍幹事長や武部幹事長をもってきたり、衆議院の郵政民営化特別委員会の筆頭理事には自民党の副総裁を経験した、盟友の山崎さんをもってきた。野党との折衝で汗をかく仕事で、普通中堅以下の人をもってくるがサプライズの演出がうまい。
 官邸サイドでサプライズを演出するということは、情報がどこかで漏れるとサプライズにならないということ。内閣の中で情報を知る人を少なくして、情報漏れを防ぐということで、ガードの堅い内閣だといえる。また、新しい総理大臣官邸ができたこともある。前の官邸はオープンで、記者は自由に行き来ができ、総理執務室の近くや官房長官の秘書官室まで行くことができた。今は1階に記者クラブがあり、3階に正面玄関があり、5階に総理と官房長官の部屋があり、常にアポイントをとらないと入ることができないので取材がしにくくなっている。
 また、特徴的なのは変化を印象づけること。例えばクールビズを率先して行う。通信販売で買ったということですが、初日に沖縄の服を着て登場して、「これはいいだろう」と自分から投げかけ、変化を印象づける。国民は、変化に弱い。場面が変わると、興味をもつ。
 もう一つの小泉政治の特徴は劇場型政治だと言える。強固な意思をもって政治を進めているというわけではない。反対派の納得を得られるよう郵政民営化法案の修正を行うのであるが、7月4日の国会答弁の中で野党の追及で修正しても法案は全く変わっていないと言い張り、強弁した。自民党内では評判が悪く、反対が増えた一つの要因になったが、自分の思いを劇場型で言い切ってしまう。
 郵政民営化法案で衆議院で51人の造反が出た。参議院はギリギリで可決されるのではないか。参議院で否決されると、解散に打って出るだろう。
 外交は、中国、北朝鮮、ロシアの北方領土、国連の安保理問題等八方ふさがりではないかと首相に質問したこともあった。3月までは予算で、4月から3カ月間郵政問題一本にしぼられていて、他の政策課題がストップしており、国益を損ねているという指摘もある。
 小選挙区制は、党主の顔によって政権が選ばれていく、ある意味でリーダーシップを強くもった人の方が選挙に勝つ。小選挙区制度によって、政治の本質が変わってきていると言える。(講演要旨)   構成/田中進(昭48法)

こいけひでお/昭和60年学習院大学経済学部経営学科卒業後NHKに入局。鳥取での5年の記者生活などを経て、政治部の首相官邸担当となる。マスコミ志望は名刺1枚でだれにでも会えるから。弁論部出身。この講演後、小泉内閣は解散。9月11日の総選挙の勝利で新たに小泉内閣が誕生。

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