学習院俳句会合同句集「岩ひばり」第1句集(昭和31年刊)に寄せられた
小宮豊隆先生(当時学習院大学教授 文学部長)の序文
この句集の名前をつけてくれと頼まれた。私は日郎君の「天涯に雲たむろせり岩ひばり」の句が気に入ったから「岩ひばり」を句集の名前にしたらどうかと思った。
しかし「岩ひばり」といふ言葉を、私は聴いたことがない。それで私は、手近の角川書店の「俳句歳時記」を探してみたが、それには「岩燕」はあるけれど、「岩雲雀」はない。しかもこの句は「岩ひばり」といふよりも「岩つばめ」といった方が、私には遥に適切である気がするし、殊にこの句が気に入った理由も、私の眼は「岩ひばり」と読んでゐたにも拘らず、私の頭はそれを「岩つばめ」と受け取ってゐたせゐであったやうに思ふ。しかし日郎君のこの句は、「ひばり」と「つばめ」と書き誤ったのではなく、事実日郎君は白馬岳で「ひばり」を見たので「つばめ」を見たのではなかったのかも知れない。もしさうだったとすれば、私はこの句集の名前を、一往は「岩ひばり」といふことにして、実際は「岩つばめ」を意味するのだといふことにしてはどうかと思ふ。
もちろん外の諸君が、そんな無理な名前は困るといふやうだったら、この案は撤回するより仕方がない。
昭和三十一年十二月十一日 小 宮 豊 隆(原文のまま)
(注)日郎君:岡田日郎(31年大文国) 「山火」主宰 俳人協会副会長
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