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平成19年・第14回法学部会講演会 問われる外交力・・・洞爺湖サミットまで1年

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平成19年度桜友会法学部同窓会が、7月7日(土)学習院創立百周年記念会館で開催されました。

当日は、総会に引き続き、恒例の講演会が行われ、昭和38年に政経学部政治学科を卒業され、現在、大学法学部特別客員教授の高島肇久先生からお話をうかがいました。

高島先生は、皆さますでにご承知のとおり、37年間NHKでテレビジャーナリストとしての仕事をされた後、国連広報センター所長、外務省外務報道官を務め、取材する側、される側の双方から国際政治と日本外交の実態をつぶさに眺めてこられた方です。

以下に、ご講演の概要をお伝えします。

第14回法学部同窓会

平成19年7月7日 学習院創立百周年記念会館にて
第14回
法学部会
講演会
問われる外交力
洞爺湖サミットまで1年
高島肇久氏(昭38政)

学習院大学法学部特別客員教授

今日は7月7日、来年の7月7日は北海道洞爺湖サミットの開会日です。サミットまであと1年。日本では5回目の開催になります。当初、外務省は京都迎賓館を使って開催したかったようですが、安倍総理の決断で洞爺湖になりました。そのかわり京都では外相会合が開かれます。

首脳会議は、7月7日から3日間行われます。でも、サミットはそれだけではありません。来年は次々に関連会議が入り、洞爺湖の首脳会議で締めくくりとなるのです。テーマは環境問題と開発問題。旱魃、豪雨、洪水といった異常気象、それに伴う食糧難と貧困。環境メカニズムが崩れ、貧しい人たちがとくにひどい目にあっています。これは地球の安全保障に関わる問題です。温暖化防止と開発途上国の貧困対策を急がねばなりません。

これらの問題を日本がどう取り上げていくか。日本のODA(政府開発援助)は減り続けています。世界から見れば、日本の熱意が問われるわけで、外務省はなんとか歯止めをかけたいと知恵を絞っています。

その先頭に立っているのが麻生外相です。日本のブランド・イメージを高めようとしています。ブランド・イメージとはソフト・パワーがどのくらいあるか、つまりその国がどのくらい魅力があり、他の国の人から尊敬を集める力があるかということです。軍事力や経済力といったハード・パワーの対極にある概念です。

麻生外相はマンガに着目しました。日本にはマンガという素晴らしいソフト・パワーがあると麻生氏は言います。ワシントン郊外のショッピングセンターに日本のマンガが並び、フランス語に翻訳された日本のマンガが出版されているように、日本のコミック、アニメ、ゲームは世界に浸透しつつある。日本のイメージを高めていくためにマンガを使うべきだ。当初は外務省の官僚たちも半信半疑でしたが、国際漫画賞の創設として実を結び、日本の文化外交に新しい風を吹き込むことになりました。

世界ではネイション・ブランドが問われるようになりました。それぞれの国のブランド・イメージです。そこに行って住んでみたい、働いてみたい国はどこか、といえば分かりやすいでしょうか。イラク戦争以来アメリカのイメージは著しく低下しています。日本のイメージは中国や韓国では低いのですが、欧米ではかなり高く、日本は信頼できる国かという問いに有識者の8割から9割が、信頼できる、どちらかというと信頼できると答えています。

問題はどうやってブランド・イメージを外交に役立てていくかです。皆さんの記憶にも新しい、国連の安全保障理事会の常任理事国入り、日本はさまざまな外交努力をしました。でも、うまくいかなかった。日本が常任理事国入りを言い出せば支援すると言っていた国が、現実にこの話しがテーブルに乗ると態度があやしくなってくる。日本に対する信頼はとても高いけれど、それが日本外交や国際的な地位の向上にはつながらないのです。

外交力はODAを倍に増やしてもダメです。問われるのは日本の発信力です。東京にいる外国のプレスが減って北京が増えている。北京のほうがニュースがある、魅力的だというわけです。中国に関する記事が増えれば、ますますメディアの関心が向いていく。大きな流れができつつあります。

日本の等身大の姿をどう伝えるか。論を立てて、英語で発信していく論者があまりにも少ない。北朝鮮の核実験やミサイルの連続発射があっても、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙のオピニオン欄に、日本人の書いた記事が出たことがありません。学者にしても論文のほとんどは日本語の印刷物として出されます。英語でインターネットに載せるということが極めて少ない。その結果、世界の有識者の目に触れる頃には時機を失したものになっています。

アメリカでは、政府が新しい方針や政策を出すとき、ファクト・シートという補足資料を豊富に出します。記者発表の後、間髪いれずに出てきます。背景説明があり、基礎的な数値が資料として示されますから、記者は深みのある記事が書けます。日本では記者が自分で調べなければなりません。締切に追われる記者にとっては無理な話です。日本の主張を世界にもっともっと伝えないと、国際社会の中で日本は存在感を失います。そのためには工夫が必要です。

英語によるテレビの国際放送をはじめたいと考えています。BBCやCNNは世界中で見られますが、これだけでいいのか。他の国は自分たちの考え方、ものの見方をテレビで伝えようとし始めています。日本でも放送法の改正が成立すれば、まもなく実現するでしょう。ただ、お客さんがつくかつかないかは、ひとえに内容にかかっています。日本人による日本風の放送ではお客さんはつきません。カタールのアルジャジーラは、アラブ系のメディアですが、英語放送にはユダヤ系のレポーターを採用し、他にもヘッド・ハンティングして優秀な人材を集めています。

今まで述べてきたような事柄を積み重ねることで、その国の存在感が高まっていくのです。いま、国際政治の中に真空状態ができてしまっています。そこにつけ入ろうとしている国がいます。自由、民主主義、人権、法の支配、市場経済という共通の価値観を持つ国が手を握り、提携していかなければなりません。

日本は世界での信頼感を高めると同時に自分たちの考え方やものの見方を発信する努力が必要です。洞爺湖には世界のプレスがやってきます。今日からまる1年、綿密な作戦を立て、日本の国際的な地位を確固たるものしていく努力が求められています。

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